着物の紋の数と格の見方|五つ紋・三つ紋・一つ紋、染め抜き紋と縫い紋の違い
染め抜き紋・縫い紋・張り紋の違い
紋の表し方には、大きく分けて染め抜き紋、縫い紋、張り紋(貼り紋)の三つがあります。もっとも格が高いのは染め抜き紋で、縫い紋、張り紋の順に略式になると考えられています。


染め抜き紋は地色を抜いて白く表す
染め抜き紋は、着物の地色を紋の形に抜き、白い生地の色で紋を表す方法です。防染して染め残す方法や、染めた後に色を抜いて紋の形を出す方法があり、その上から紋上絵師(もんうわえし)と呼ばれる職人が、細い筆で紋の線を描き入れて仕上げます。
黒留袖や喪服、男性の黒紋付など、第一礼装の紋はこの染め抜きが基本です。白い紋が黒地にくっきり浮かび、遠目にも紋がはっきり見えます。
縫い紋は刺繍で表す
縫い紋は、糸で刺繍をして紋を表す方法です。染め抜きよりも控えめな印象になり、色無地や訪問着、江戸小紋などに入れることが多い表し方です。すでに仕立て上がった着物にも比較的入れやすく、地色を抜かないので、色の変化が心配な生地でも選びやすいという利点があります。
縫い紋には、紋全体を面で縫いつめる方法と、輪郭線だけを縫う方法などがあり、後者はより略式で柔らかな印象になります。糸の色は地色に近い色や少し濃い色を選ぶと控えめになり、白や銀に近い色を選ぶと紋がはっきり見えます。
張り紋は一時的に使う
張り紋は、紋を描いた小さな布を、着物の紋の位置に貼り付ける方法です。紋のない喪服を急いで用意する場合や、貸衣装などで、着る人の家紋に合わせて付け替えたい場合に使われます。外して別の紋に付け替えられるのが特徴ですが、正式な表し方ではなく、あくまで一時的な対応と考えられています。
洒落紋は礼装の紋とは別もの
紋の形を色糸で華やかに刺繍したり、花や小物を図案化した飾りの紋を入れたりするものを、洒落紋(しゃれもん)や加賀紋と呼ぶことがあります。こちらは装飾として楽しむもので、格を上げる紋とは考えません。礼装の紋とは役割が違うため、式典用の着物に入れるかどうかは慎重に考えます。
日向紋・中陰紋・陰紋で変わる印象
同じ家紋でも、白い面で紋を表すか、線だけで表すかによって、格と印象が変わります。
- 日向紋(ひなたもん): 紋の形を白い面で表すもの。もっとも格が高く、礼装に使われます。
- 中陰紋(ちゅうかげもん): 日向と陰の中間で、輪郭の線を太めにとって表すもの。
- 陰紋(かげもん): 紋の形を細い輪郭の線だけで表すもの。控えめで、略式の扱いになります。
家紋の図柄としての日向・陰の違いは、家紋の見方入門でも紹介しています。着物の紋では、この描き方と、先ほどの染め抜き・縫いという技法を組み合わせて考えます。たとえば「染め抜き日向紋」は最も改まった表し方、「縫いの陰紋」はもっとも控えめな表し方のひとつです。
色無地や訪問着に陰紋を選ぶ理由
色無地や訪問着に一つ紋を入れるとき、あえて陰紋や縫い紋を選ぶ人がいます。紋の存在感が控えめになり、改まった場にも出られる格を持たせつつ、堅くなりすぎないようにするためです。お茶会などで「主客ではなく一般の客として出る」場面では、こうした控えめな紋がちょうどよいと感じる人もいます。
逆に、留袖や喪服のように紋の格が求められる着物には、陰紋や縫い紋はあまり使われません。着物の種類と紋の格が釣り合っているかを意識すると、組み合わせの違和感を避けられます。

石持ちと紋の入れ方
既製品の喪服や留袖の背中に、白い丸だけが染め抜かれていて、中に何も描かれていないものを見かけることがあります。これは石持(こくもち)と呼ばれ、後から紋を描き入れるために、あらかじめ白く丸く染め抜いてある部分です。
石持ちに紋を描き入れる
石持ちのある着物は、購入後に着る人の家紋を紋上絵師が描き入れて仕上げます。白い丸の中に紋の線を描くため、外側に丸がある紋(たとえば「丸に〇〇」)はそのまま収まりやすく、丸のない紋も丸の中に描き込んで表します。どんな家紋にも対応できるので、既製の礼装に広く使われています。
ただし、丸のない紋を石持ちに描き入れると、外側に白い丸が残るため、もとの紋とは少し違う見た目になります。これを気にする場合は、白い丸の部分を地色で染め直してから紋を描くこともあります。手間と費用が変わるので、依頼する前に職人や呉服店に相談します。
仕立て上がりの着物に後から紋を入れる
紋のない着物に後から紋を入れることもできます。縫い紋なら、仕立て上がった着物にも比較的入れやすい方法です。染め抜き紋を後から入れる場合は、地色を抜く作業が必要になり、生地や色によってはきれいに抜けないこともあります。濃い色や特殊な染め方の着物では、事前に職人に見てもらうのが安心です。
一度入れた染め抜き紋を消すのは難しく、別の紋に入れ替える場合も、上から重ねて描き直すような工夫が必要になります。後から変える可能性があるなら、縫い紋や張り紋を選ぶ考え方もあります。










