スポンサーリンク
歴史・文化

文楽の見方入門|三人遣いと太夫・三味線の役割、舞台のつくりと初めての観劇の準備

時代物と世話物、初めてに向く演目

文楽の作品は、大きく「時代物」と「世話物」に分けられます。

スポンサーリンク
時代物と世話物(時代物と世話物の比較)
どちらから見始めても楽しめる。

時代物は、江戸時代より前の武家や公家の世界を舞台にした作品です。歴史上の事件や人物を題材にしながら、忠義と親子の情のあいだで苦しむ人物の姿を描きます。『菅原伝授手習鑑』『義経千本桜』『仮名手本忠臣蔵』の三作品は、人形浄瑠璃の三大名作と呼ばれ、いまも上演される機会の多い作品です。

世話物は、作品が書かれた当時の町人の世界を描いたものです。近松門左衛門の『曽根崎心中』『冥途の飛脚』『心中天網島』などが代表作で、恋や商い、お金のことで追い詰められていく人々の姿が描かれます。現代の私たちにも身近に感じられる悩みが多く、人物の気持ちを想像しやすいのが特徴です。

作品の組み立て方にも違いがあります。時代物は全体が五つの段に分かれた長い構成のものが多く、一日では上演しきれない大作もあります。各段のなかでは、物語の山場となる場面が段の終わり近くに置かれるのが一般的です。世話物は上・中・下の三つの巻に分かれた比較的短い構成のものが多く、一つの部のなかで物語の始まりから結末までを見られることもあります。上演の案内に書かれた段や場面の名前を見ると、作品のどのあたりを上演するのかがわかります。

初めての一本を選ぶときは、次のような考え方で探すと選びやすくなります。

  1. 題名を知っている作品から選ぶ: 歌舞伎やドラマなどで聞いたことのある題名なら、あらすじが頭に入りやすくなります。
  2. 世話物の短めの演目を選ぶ: 登場人物が少なく、物語の筋を追いやすいものが多くあります。
  3. 見せ場がはっきりした場面を選ぶ: 人形の早変わりや立ち回りがある場面は、言葉がわからなくても楽しめます。
  4. 解説付きの公演を選ぶ: 初心者向けの公演では、上演の前に人形の動かし方や三味線の音を実演付きで紹介してくれることがあります。

長い作品は、全体を通して上演する「通し」ではなく、人気の場面だけを選んで上演する「見取り」の形で行われることもよくあります。見取りの場合は、前後のあらすじを先に読んでおくと、場面の意味がよくわかります。

スポンサーリンク

公演の選び方と、当日までの準備

文楽の公演は、大阪の国立文楽劇場を本拠地として行われ、東京や各地でも公演や地方巡業があります。東京の国立劇場は建て替えのため閉場しており、東京での公演はほかの会場で行われています。公演の日程、会場、チケットの買い方は時期によって変わるので、最新の情報は劇場や主催団体の公式サイトで確かめてください。

公演は、一日をいくつかの部に分け、部ごとに入れ替えになっていることが多くあります。一つの部でも数時間かかることがあるので、初めてなら一つの部だけを選ぶと無理がありません。部ごとの演目と上演時間を見て、休憩の時間も確かめておきます。

観劇の前に準備しておきたいことを、順に挙げます。

  1. あらすじを読む: 公式サイトや公演のチラシなどに載っているあらすじを読み、主な登場人物の名前と関係をつかんでおきます。
  2. 字幕や解説の有無を確かめる: 劇場によっては舞台の近くに字幕が表示されます。音声で解説を聞ける機器の貸し出しがある公演もあります。
  3. 床本の冊子を手に入れる: 公演のプログラムなどに、太夫が語る詞章を載せた床本が付いていることがあります。目で文字を追うと、聞き取りにくい言葉もわかります。
  4. 時間に余裕を持って着く: 開演後は途中から入れないことや、区切りまで待つことがあります。

あらすじを読むときのコツ

文楽の作品は、登場人物が多く、親子や主従の関係が入り組んでいることがよくあります。あらすじを読むときは、紙に主な人物の名前を書き出し、親子、夫婦、主君と家来などの関係を線で結んでおくと、舞台を見ながら迷いにくくなります。本名を隠して別の名前で暮らしている人物や、身分を偽っている人物が出てくることも多いので、「実は誰なのか」も書き添えておきます。

作品の題名は「外題(げだい)」と呼ばれ、『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』のように、読み方が難しいものが少なくありません。題名とあわせて、上演される段や場面の名前と読み方も確かめておくと、劇場での案内や字幕の表示と結びつけやすくなります。見取りで上演される場面なら、その前後で何が起きたのかを二、三行でまとめておくだけでも十分です。

上演中の写真や動画の撮影、録音は禁止されているのが一般的です。客席での撮影の可否は、会場の案内に従ってください。

歌舞伎も見たことがある人は、同じ題名の作品を見比べると、人形と生身の役者の違いがよくわかります。歌舞伎の見方は歌舞伎の見方を初心者向けに解説で紹介しています。また、舞台の約束事を知って楽しむ点では、能と狂言の見方入門も参考になります。

スポンサーリンク

観劇中の見方とマナー

幕が開いたら、最初から全部を理解しようとせず、まずは人形の動きと太夫の声に身をまかせてみましょう。慣れないうちは、字幕や床本ばかり見ていると人形の演技を見逃してしまいます。あらすじを頭に入れておき、字幕は「今どこにいるか」を確かめる程度に見るのがおすすめです。

見方に迷ったら、次のように見る場所を順に変えてみると、文楽の重なりあった表現がつかめてきます。

  • 人形だけを見る: 人形遣いを意識から外し、人形の顔の向きと手の動きだけを追います。
  • 床を見る: 太夫が人物ごとに声と表情をどう変えているか、三味線がどこで間を取っているかに耳を澄まします。
  • 人形遣いの体を見る: 主遣いのわずかな体の動きに、左遣いと足遣いがどう合わせているかを見ます。

拍手は、盆が回って太夫と三味線が現れたときや、場面の区切り、見せ場で起こることがあります。周りの観客に合わせればよく、無理にたたく必要はありません。上演中のおしゃべりや、袋の音を立てること、身を乗り出して後ろの人の視界をふさぐことは控えましょう。飲食ができる場所や時間も、会場の案内に従います。

一度見て気に入ったら、同じ演目を別の太夫や人形遣いで見たり、席を変えたりすると、新しい発見があります。語りの芸に興味が湧いたら、同じく一人で何役も演じ分ける落語と比べてみるのも面白いでしょう。落語の楽しみ方入門も参考にしてください。

見終わったあとに記憶を残す

観劇のあとは、印象に残った場面を、人形の動きと太夫の語りに分けて短く書き留めておくのがおすすめです。「娘が袖で顔を覆って肩を震わせた」「太夫の声が急に低くなって場面が変わった」のように、具体的な動きと音で書くと、次に見るときの手がかりになります。

床本の冊子を持ち帰ったなら、心に残った場面の詞章を読み返してみましょう。劇場では聞き取れなかった言葉の意味がわかり、太夫がどの言葉に力を込めていたのかが見えてきます。演目の背景になった歴史や事件を調べてみると、作品が書かれた時代の人々が何に心を動かされていたのかも想像しやすくなります。

まとめ

文楽は、太夫の語り、三味線の音楽、三人で遣う人形の三つが重なってできている芸能です。黒衣は見えないものという約束や、手摺と船底で人形が地面に立って見える工夫など、舞台の約束事を少し知っておくだけで、ずっと見やすくなります。

最初の一歩としては、劇場や主催団体の公式サイトで近く上演される演目を一つ選び、そのあらすじと主な登場人物を読んでみましょう。初心者向けの解説付き公演があればそれを選び、当日は床本や字幕を手がかりにしながら、人形の目線と太夫の声の変化に注目して見てみてください。

よくある質問

文楽の言葉は昔の言葉なので、聞き取れなくても楽しめますか?

最初から全部聞き取れる人はほとんどいません。劇場によっては字幕が出たり、詞章を載せた床本の冊子があったりするので、あらすじを先に読んでおけば、人形の動きと太夫の声の調子だけでも物語を追えます。

文楽と歌舞伎は同じ演目をしているのですか?

同じ題名の作品が多くあります。もともと人形浄瑠璃のために書かれ、人気が出て歌舞伎に移された作品が少なくないためです。同じ場面でも、人形と生身の役者とでは見せ方が違うので、見比べると両方の楽しみが深まります。

人形遣いが黒い頭巾をかぶっていないこともあるのはなぜですか?

主に人形の頭と右手を動かす主遣いは、大切な場面などで顔を出したまま遣うことがあり、これを出遣いといいます。黒い衣装と頭巾の黒衣(くろご)は「見えないもの」という約束で、どちらの場合も観客は人形を見るのが基本です。

初めてならどのくらいの長さの公演を選べばよいですか?

一つの部が数時間あることも多いので、初めてなら一つの部だけを見るのが無理がありません。初心者向けの解説が付いた公演があれば、それを選ぶと人形や三味線のしくみを実演付きで知ることができます。

服装に決まりはありますか?

特別な決まりはなく、ふだんの外出着で大丈夫です。長い時間座るので楽な服を選び、劇場内の温度に合わせて一枚はおれるものを持っていくと安心です。

コメント

まだコメントはありません。最初の感想をどうぞ。

個人情報(本名・住所・電話番号など)やリンクの書き込みはご遠慮ください。内容によっては表示しないことがあります。プライバシーポリシー

スポンサーリンク
  1. 秋の戸口に並ぶかぼちゃの明かりとかぶ、麦束
  2. 資料を手に落ち着いて話し合う二人
  3. ノートパソコンと資料、外付け記憶装置がある机
  4. 冬の木で越冬する卵のうやミノムシ、テントウムシ
  5. 青い折り鶴と三角に折った紙、無地の折り紙