鍾乳洞のでき方|鍾乳石と石筍が育つしくみ、カルスト地形と見学の準備
鍾乳洞は、石灰岩を溶かす水と、溶けた成分を再び積もらせる水の働きでできます。海の生き物に由来する岩の成り立ち、二酸化炭素が関わる反応、カルスト地形との関係を平易に説明し、鍾乳石・石筍・畦石の見分け方、洞内の生き物と保全、見学の服装と増水時の確認までまとめました。

鍾乳洞を歩くと、天井から下がる細い石、床から伸びる丸い石、水田のように段を作る縁が目に入ります。同じ洞内に並ぶこれらの形は、岩が最初からその姿だったわけではありません。地上からしみ込んだ水が岩を溶かし、別の場所で成分を積もらせた跡です。
仕組みを知ると、「何に似ているか」に加えて、「水はどこから来て、どちらへ流れたのか」を考えながら見学できます。まず石灰岩と地下水の関係をたどり、洞内の形や生き物を見分ける手がかりを整理します。最後に、観光用に整備された鍾乳洞へ出かける際の服装と、立ち入らない判断を確認しておきましょう。
石灰岩は海の生き物とどのようにつながるか
炭酸カルシウムを多く含む岩です
鍾乳洞を理解する出発点は、空洞を囲む石灰岩です。石灰岩は炭酸カルシウムを主成分とする岩石で、多くはサンゴ、貝、有孔虫など、海で暮らした生き物の殻や骨格に由来します。細かく砕けた殻や石灰質の泥が海底に積もり、その後、圧密や成分の沈殿によって固まって岩になります。
すべての石灰岩で、貝殻の形を肉眼で見つけられるわけではありません。材料が細かいことも、岩になる間に結晶が変化することもあります。白っぽいという外見だけで石灰岩と決めることもできません。倉敷市立自然史博物館のカルシウムの解説では、殻などに由来する石灰岩と、溶けた成分からできる鍾乳石の関係が紹介されています。
炭酸カルシウムは成分の名前で、方解石はその成分からなる鉱物の名前です。石灰岩は、方解石などの粒が集まった岩石として考えると区別しやすくなります。多くの鍾乳石も方解石を主に含みますが、岩石と鉱物と洞内の形の名前は、それぞれ違うものを表しています。
海底の岩が山にあるのは、土地も動くためです
現在の山地に石灰岩があるのは、昔からその山の高さに海があったという単純な話ではありません。海底でできた岩が、プレートの運動や地殻の変動に伴って移動し、隆起し、地表に現れる過程があります。地域によって成り立ちは違うため、現地の地質展示で確かめると、その洞窟に合った時間の流れをつかめます。
ここでは「岩ができた時期」「洞窟の空洞ができ始めた時期」「目の前の鍾乳石が育った時期」を分けることが大切です。岩が古くても、すべての空洞や鍾乳石が同じだけ古いわけではありません。岩が陸上に現れ、水が通るようになってから始まる変化があるためです。
地上の露出した岩と洞内の壁を見比べるなら、粒の見え方や層の向きなど、触らずに分かる点を観察します。地層の見方入門|粒の大きさで読む堆積のしくみ、露頭の観察と化石探しのマナーも、地層と化石を見るときの手がかりになります。洞内では、岩を割る、削る、薬品をかけるといった確かめ方はしません。
二酸化炭素を含む水が、岩を溶かしてまた積もらせる
雨が土を通る間にも、水の性質が変わります
雨水には空気中の二酸化炭素が溶け込みます。さらに土壌を通ると、植物の根の呼吸や微生物の活動などで生じた二酸化炭素を取り込みます。二酸化炭素が水に溶けると、その一部が炭酸となり、水は石灰岩を溶かす働きを持ちます。強い薬品が流れ込まなくても、自然の水だけで反応は進みます。
石灰岩の主成分である炭酸カルシウムは、真水には溶けにくい物質です。ところが二酸化炭素を含む水の中では、カルシウムイオンと炭酸水素イオンとして水中に移りやすくなります。「炭酸カルシウムが炭酸水素カルシウムになって溶ける」と説明されるのは、この変化です。
成分の収支を簡単に書くと、「炭酸カルシウム+二酸化炭素+水 ⇄ 炭酸水素カルシウム」です。式では「CaCO₃+CO₂+H₂O ⇄ Ca(HCO₃)₂」と表せますが、水中では右辺の物質が一つの粒のまま漂うというより、イオンに分かれていると考えます。白い岩のかけらがそのまま水に浮くこととは違う反応です。
溶ける働きを「溶食」と呼びます。流れる水が砂や小石で岩を削る作用も空洞の変化に関わりますが、石灰岩の洞窟では、この成分が水に溶けて運び出される働きを押さえると理解しやすくなります。日本応用地質学会の石灰岩地域の地下水の資料にも、二酸化炭素と溶解・沈殿の関係が示されています。

滴が洞内の空気に触れると、逆の反応が起こります
成分を溶かした水が天井の割れ目から洞内へ出ると、条件によって水中の二酸化炭素が空気へ抜けます。すると反応が逆向きに進み、炭酸カルシウムが固体として現れます。水から固体が生じることを沈殿といい、洞内ではその固体が表面に少しずつ付着していきます。
「水が乾いた残りがすべて鍾乳石になる」と覚えると、湿った洞内で育つ理由が分かりにくくなります。蒸発が関わる場合もありますが、二酸化炭素の抜け方が大切です。反対に、洞内の空気に二酸化炭素が多いなど、条件が変われば沈殿しにくくなることもあり、水さえあれば同じように育つわけではありません。
地下水の通り道が広がり、地上のカルスト地形につながる
初めは、人が入れない割れ目を水が通ります
岩の中には、力が加わってできた割れ目や、層の境目などがあります。石灰岩の洞窟は、こうした場所に水が入り、少しずつ通り道を広げるところから始まります。地下水面より下で水に満たされた部分でも溶食は進みます。水が動いて溶けた成分を運び出すことで、新しい水が入り続けられます。
地下水面は、地面の下で岩の隙間などが水に満たされる領域の上面です。地下のどこにでも水平な湖面が広がっている、という意味ではありません。地形や水の流れに応じて位置が変わり、長い時間の中では、川が土地を削ることや土地が隆起することによっても洞窟との高さの関係が変わります。
地下水面が下がると、以前は水で満たされていた通路の一部に空気が入ります。そこへ上から成分を含む水が滴り、鍾乳石などが育つ条件が整います。ただし、水位が下がるだけで地表に入口が開くとは限りません。谷が深く刻まれる、斜面が削られるなどして空洞が地表とつながる過程も必要です。

この順序は、石灰岩の洞窟を考える基本です。実際には空気のある通路を川が掘り下げるなど、複数の働きが重なります。空洞が広がる場所と鍾乳石が育つ場所が同じ洞窟内に並ぶこともあり、洞窟全体が一斉に次の段階へ移るわけではありません。米国国立公園局の溶食洞窟の解説も、割れ目から水の道が広がる仕組みを紹介しています。
ドリーネはくぼ地、カレンフェルトは溶食された岩の広がりです
石灰岩などが水に溶けてできる特徴的な地形を、カルスト地形と呼びます。地下の洞窟だけでなく、地表のくぼ地、水が地下へ入る場所、湧き出す場所まで含めて見ると、同じ水の流れが作る地形として捉えられます。地表に大きな川が少なく見えても、地下を水が流れている場合があります。
ドリーネは、すり鉢状などのくぼ地です。溶食によってできるものに加え、地下の空洞の崩落が関わるものもあります。カレンは石灰岩の表面などにできる溝や凹凸で、そうした溶食された岩が広がる場所をカレンフェルトと呼びます。白い岩の間を歩けばどこでも安全、という地形ではありません。
地表と地下が水でつながることは、保全にも関係します。地上で捨てたごみや汚れが、しみ込む水とともに地下へ運ばれる可能性があるためです。観光では指定された散策路から地形を眺め、ドリーネの底や吸い込み穴へ降りて地下へのつながりを確かめようとしないでください。










