温泉の泉質の見方|地下での成り立ちと、温泉分析書を読む順番
pHと溶存物質は違う性質を表す数字
pHは酸性・アルカリ性の程度を読む
pHは水溶液の酸性・アルカリ性を示す指標です。一般には中性付近を境に、数値が小さい側を酸性、大きい側をアルカリ性と読みます。ただし測定温度などの条件が関わるので、違う分析書を比べるときは測定条件も確かめます。pHが高いほど成分全体が多いという意味ではありません。
pHの目盛りは、数字の差がそのまま同じ幅の変化を表す単純な物差しでもありません。日帰りの見学で詳しく計算する必要はありませんが、「pHが一つ違うだけだからほぼ同じ」と決めない方がよいでしょう。一方で、わずかな数値の違いから体への作用を推測することもできません。
アルカリ性の湯で滑らかな感触が語られることはありますが、感触はpHだけで決まりません。成分の構成、湯温、浴槽の状態、肌の状態などが関わります。ぬるつくから強いアルカリ性、刺激を感じないから酸性ではない、という逆算は避け、数値と感想を分けて扱います。
溶存物質は「溶けている量」の見方
溶存物質は、水に溶けている物質を指します。分析書では、水一キログラム当たりのミリグラムなどで量を示す例が多くあります。「ガス性のものを除く」と付く欄や、ガス性成分を別に示す欄もあるので、合計らしい数字を見つけても欄名まで読んでください。
成分が水に溶けている状態は、目で粒が見える状態とは違います。塩分を含む透明な水もあれば、成分の一部が細かな粒になって濁る湯もあります。透明だから薄い、濁っているから成分の総量が多い、と見た目だけで量を比べることはできません。
| 掲示の項目 | 主に何を示すか | 読み違えやすい点 |
|---|---|---|
| 泉温 | 採取した場所などでの温度 | 浴槽の現在の湯温とは限らない |
| pH | 酸性・アルカリ性の程度 | 成分の総量や入浴可否ではない |
| 溶存物質 | 溶けている成分の量 | ガスを含むかは欄名を確かめる |
| 成分総計 | 表の定義に沿う成分の合計 | 別の表の合計と無条件に比べない |
| 知覚的試験 | 試料の色やにおいなどの記録 | 今の浴槽と同じとは限らない |
表の「無色澄明」などは、採取した試料の観察結果です。浴槽で違う色に見えても、すぐに表が間違いだとはいえません。地上へ出た後の酸化や沈殿が関わるため、分析書の時点と浴槽の状態を結ぶ途中の変化を考えます。
「低張性」などの表示も溶けている成分に関係する分類で、味の薄さや体への優しさを直接保証する語ではありません。分類名を健康上の順位に置き換えず、詳しい意味は掲示の補足や公式の資料で確認してください。
長い泉質名は陽イオンと陰イオンに分けて読む
名前の前半と後半で成分の種類を整理する
水に溶けた成分の多くは、電気を帯びた粒子であるイオンとして存在します。プラスの電気を持つものを陽イオン、マイナスを持つものを陰イオンと呼びます。分析書でナトリウムやカルシウムが並ぶ欄と、塩化物や炭酸水素が並ぶ欄に分かれているのは、この違いによります。
例えば「ナトリウム―塩化物・炭酸水素塩泉」という名前なら、前半のナトリウムは主な陽イオン、後半の塩化物と炭酸水素塩は主な陰イオンに関わる部分として読めます。中黒で複数の成分がつながっていても、いくつもの別の温泉を混ぜたという意味ではありません。同じ一つの温泉水に複数の特徴があることを示します。
「含硫黄」や「酸性」などの語が付く場合は、主な塩類以外の特徴が名前に加わっています。長さに圧倒されず、修飾する語、陽イオン側、陰イオン側に分けて目を通すと構造が見えます。反対に、短い名前だから成分が少なく単調な湯だ、と判断することも避けます。
ミリグラムとミリバルパーセントを混同しない
成分表にはmg/kgのほか、mval、ミリバル%などの列がある場合があります。mgは重さに基づく量ですが、イオンは種類ごとに重さも電気の数も異なります。そのため、名前に反映される成分の比率を見るときは、重さの順位だけでは説明できないことがあります。
ミリバルは電気の量に対応させた見方で、ミリバル%は陽イオン側、陰イオン側それぞれの中での割合を読む指標です。水全体の何%がその成分でできているか、という重量百分率ではありません。例えば二つの欄にそれぞれ大きな割合が書かれていても、そのまま足して温泉水全体の割合にはできません。
二つの分析書を比べるなら、まず溶存物質の量で全体の濃さを見て、その後に成分の割合を見ます。仮にナトリウムの割合が近くても、全体の量が大きく違えば、水一キログラム中に含まれるナトリウムの量は同じにはなりません。「組成が似ている」と「濃度が同じ」は別の比較です。両方を一度に順位付けするより、量と構成を順に読んだ方が特徴をつかめます。
一般の入浴者が計算して泉質名を付け直す必要はありません。「主な成分を選ぶときには電気の量をそろえた比較を使う」と分かれば十分です。mgの最大値と泉質名の順番が違って見えたら、列を取り違えていないかを確かめます。細かな命名の条件は専門の分析に任せてください。

主な泉質は見た目より成分の特徴から知る
単純温泉と塩類の名前が付く温泉
単純温泉は「ただのお湯」という意味ではありません。温度や溶存物質などの分類条件に基づく名前で、同じ分類内でもpHや成分の組み合わせは異なります。香りや濁りが目立たない湯でも、分析書を見ると、地下で取り込んだ成分の違いを知ることができます。
塩化物泉は塩化物イオンが主な特徴となる温泉です。ナトリウムなどの陽イオンと組になった長い泉質名で書かれることがあります。成分は溶けた状態で存在するため、塩化物泉でも透明な湯はあります。海水のような見た目を想像せず、成分表で見る方が確実です。味見による確認はしません。
炭酸水素塩泉は炭酸水素イオンが主な特徴の温泉です。炭酸水素という言葉から泡を想像しやすいものの、二酸化炭素泉とは分類の着眼点が異なります。滑らかな感触を持つ例や、炭酸カルシウムを析出する例がありますが、すべての湯が同じ感触や沈殿を示すわけではありません。
硫酸塩泉は硫酸イオンが主な特徴です。「硫」の文字があるため硫黄泉と混同されやすいものの、硫黄に関係する別の化学形態を見ています。硫酸塩泉という名前だけで、白濁や卵に似たにおいを予想することはできません。カルシウムなど、対になる成分にも注目すると違いを見やすくなります。
ガスや鉄、硫黄、酸性に着目する温泉
二酸化炭素泉は遊離二酸化炭素に着目する分類です。圧力や温度が変わってガスが水から出ると、細かな泡が見られることがあります。ただし、設備で発生させた気泡もあり、泡の有無だけでは天然の成分によるものか、泉質名が付く条件を満たすかは判断できません。
含鉄泉は鉄の成分に着目します。地下では溶けていた鉄が、地上で空気と接して酸化し、赤茶色などの沈殿を作ることがあります。源泉で透明に見えたものが浴槽で色づく例は、この変化を考える手がかりです。ただし、鉄による色があっても、含鉄泉の分類条件を満たすとは限りません。
硫黄泉は、硫化水素などを含む硫黄成分に着目する分類です。よく「硫黄のにおい」と呼ばれるものは、主に硫化水素などに由来します。硫黄そのものの粒がすべて同じにおいを放つわけではありません。においの強さから濃度や安全性を推定したり、湯口へ顔を近づけて確かめたりしないでください。
酸性泉は酸性の性質に着目した分類で、他の成分名と組み合わさることがあります。酸性という名前を刺激や体への効果の強さに置き換えず、利用上の注意は施設の掲示を確認します。これらは主な例で、ほかにも分類があります。泉質ごとの概要は別府温泉地球博物館の泉質・泉質名でも確認できます。










