敬語の使い方の基本|尊敬語・謙譲語の違いと仕事で迷わない例文
依頼・確認・断りの伝え方
依頼には対象と期限を添える
依頼文では、敬語の正しさに加えて、相手が次に何をすればよいかが分かることが必要です。「お忙しいところ大変恐縮ですが、ご確認のほど何とぞよろしくお願い申し上げます」だけでは、どこを、いつまでに見ればよいか分かりません。丁寧な前置きを増やす前に、確認対象を絞ります。
たとえば、「添付の見積書をご確認いただけますか。数量と納期に修正がなければ、金曜日の正午までにご返信をお願いいたします」とすると、見る箇所と返答の期限が分かります。期限は例として示したものです。実際には相手が対応できる日程かを考え、急ぐ理由があれば短く添えます。
「ご確認ください」は依頼の形として使えますが、初めての依頼や相手の負担が大きい依頼では、「ご確認いただけますか」のように、引き受けられるかを尋ねる形も選べます。どちらが常に上等というものではありません。業務上必須の提出物について、任意の協力に見えるほど曖昧にしない配慮も必要です。
許可と依頼を混同しない
「送ってもよろしいでしょうか」は自分が送る許可を尋ねる文です。「お送りいただけますか」は相手に送ってもらう依頼です。丁寧な疑問文という共通点だけで選ぶと、行為者が逆になります。許可を得たいなら自分の行為を、頼みたいなら相手に求める行為を具体的に置きます。
「ご説明してもよろしいでしょうか」は、自分が説明する許可を求めています。「ご説明いただけますか」は、相手に説明を頼んでいます。会議で一人の発言が続き、主語が省略されやすいときほど、「私から」「担当の方に」を補うと行き違いを減らせます。
断るときは対応範囲を示す
「難しいかもしれません」だけでは、まだ検討中なのか、できないのか判断できません。断る必要があるなら、「申し訳ありませんが、本日中の納品には対応できません。明日の午後でしたらお届けできます」のように、対応できない範囲と代案を分けます。理由は伝えてよい事実だけを添え、必要以上の社内事情を説明しません。
まだ回答を決められないときは、「在庫を確認し、本日三時までに回答いたします」と、確認中であることと次の連絡時点を伝えます。「検討させていただきます」を繰り返すより、相手が待つ目安を持てます。メール全体の組み立てはビジネスメールの書き方も参考になります。
社内と社外で変わる身内の伝え方
上司も社外への説明では自分側になる
一般的な会社の対外応対では、社外の人に自社の人物を説明するとき、上司も自分側として扱います。社内で「田中部長はいらっしゃいますか」と尋ねる場面と、取引先に「田中は席を外しております」と説明する場面では、話す相手との関係が違います。

この使い分けは、上司本人への敬意をなくすという意味ではありません。会社を代表して外部の人と話す場面で、誰を自分側として扱うかをそろえるものです。役職が説明に必要なら「部長の田中が担当いたします」のように述べられます。社外への紹介で「田中部長様」と敬称を積み重ねる必要はありません。

取引先の人については、「山田様がいらっしゃいました」「山田様から伺いました」のように、その人と動作との関係に合わせます。自社の人と取引先の人が同じ文に出る場合は、「山田様のお話を、弊社の田中に申し伝えます」のように、誰から誰へ伝えるのかをはっきりさせると安全です。
呼称には組織や場面の違いがある
学校、病院、地域団体などでは、先生や資格名を含む呼び方が定着していることがあります。会社の電話応対の例を、そのままあらゆる組織へ広げない方がよいでしょう。所属先の応対方針を確認し、外部の人が相手を特定できる呼び方かも考えます。
また、社外の人に上司のことを説明している途中で、その上司本人へ呼び掛けるときは、話す相手が切り替わります。「田中、電話です」と呼び掛ける必要はありません。取引先には「担当に代わります」と伝え、上司には普段の適切な呼称で取り次げば、場面を混同せずに済みます。
文書では相手の会社を「貴社」、会話では「御社」とする使い分けもよく用いられます。自社を述べる「弊社」はへりくだった表現です。ただし、毎文に会社名や「弊社」を繰り返すと読みにくいため、誰の行為か分かるところでは省いてかまいません。
電話・来客・会議で使う短い表現
不在を伝える電話応対
電話では表情が見えないため、長く飾った言葉より、区切りの分かる短い文が役立ちます。自社の田中宛てに電話があり、不在だった場面を考えます。相手の用件を勝手に推測せず、次のように一つずつ確認します。
- 「申し訳ございません。田中はただいま席を外しております」と状態を伝えます。
- 「よろしければ、ご用件を伺います」と伝言を受けるか確認します。
- 折り返しが必要なら、相手の会社名、氏名、連絡先、都合のよい時間を確認します。
- 「田中に申し伝えます」と引き受けた内容を伝え、必要な数字や日時を復唱します。
戻る時刻が分からないなら「戻り次第、必ずすぐにお電話します」とは約束せず、「戻り次第、連絡するよう申し伝えます」と、確実にできることを述べます。予定を確認できるなら、相手を待たせてもよいか尋ねてから確認します。私用の外出先など、不要な個人情報まで伝える必要はありません。
相手の声が聞き取れなければ、「恐れ入りますが、お名前をもう一度伺えますか」と聞き直せます。聞こえたふりをして伝言を間違える方が、後の負担を増やします。読み方が分かりにくい名字や、似た名称の会社の場合は、漢字や正式名称も必要な範囲で確かめます。
来客時の案内とオンライン会議
来客には「こちらへご案内いたします」「少々お待ちいただけますか」のように、行動ごとに伝えると分かりやすくなります。「お座りになられてお待ちいただけますでしょうか」と長く続けるより、「どうぞお掛けください。担当者を呼んでまいります」と分ける方が自然です。
オンライン会議では、「画面はご覧になれますか」と見えているかを確かめ、自分が共有するなら「資料を共有します」と述べれば用件が伝わります。通信の不調で聞こえなかったときは、「最後の条件をもう一度お聞かせいただけますか」と、聞き直したい範囲を示すと相手も繰り返しやすくなります。
会議で報告するときは、敬語だけに注意を向けると肝心の結論が遅れがちです。「確認中です。理由は二点あります」のように状態を先に伝え、その後で理由と依頼を述べます。報告と相談の使い分けは報連相の基本と実践例で整理しています。
返事と引き受けた内容を分ける
「承知しました」は、依頼や説明を理解して受けたことを伝える表現として使いやすい言葉です。ただし、それだけでは作業を始めるのか、日程も合意したのか分からない場合があります。「承知しました。修正版を明日の午前中にお送りします」と、引き受けた範囲を続けると確認になります。
内容をまだ理解できていないなら、先に「一点確認してもよろしいでしょうか」と尋ねます。丁寧に返事をするためだけに承諾してしまうと、後から条件を変える必要が生じます。「説明は理解しましたが、納期は確認が必要です」と、理解したことと未確定のことを分けて伝えられます。
電話を切った後の社内メモは、会話の敬語をすべて書き写す必要はありません。「山田様より。見積書の数量を確認希望。金曜正午までの回答を依頼」のように事実を整理します。そのメモを外部へ送る文書に使うときは、改めて呼称や省略表現を整えてください。










