フェルミ推定のやり方|式への分解と数字の置き方、桁で考える誤差の扱いと仕事での使いどころ
調べてもすぐには分からない数を、手元の知識から筋道立てて見積もるフェルミ推定の進め方を、問いの定義、式への分解の型、根拠のある数字の置き方、上下限と桁で考える誤差の扱い、よくある失敗、仕事の見積もりへの使い方、日常での練習法まで例題つきでまとめました。

「日本にピアノの調律師は何人いるか」「この駅を一日に何人が使うか」。こうした、すぐには調べられない数を、手元の知識と筋道立てた計算でおおまかに見積もる方法を「フェルミ推定」と呼びます。就職の面接で出される問題として知られていますが、本来は、限られた情報から素早く当たりをつけるための、日常的に使える考え方です。
フェルミ推定で目指すのは、正確な値を当てることではなく、桁を外さないことです。この記事では、名前の由来から始めて、問いの定義、式への分解、数字の置き方、誤差の考え方、よくある失敗、仕事での使いどころ、練習のしかたまでを、例題をまじえて順に紹介します。
フェルミ推定とはどんな考え方か
フェルミ推定という名前は、20世紀の物理学者エンリコ・フェルミに由来します。フェルミは、学生に「シカゴにピアノの調律師は何人いるか」といった問いを出し、手元にある知識だけでおおよその答えを導かせたと伝えられています。
この方法の核にあるのは、「直接は分からない数を、分かる数の掛け算や足し算に分ける」という発想です。調律師の人数は分からなくても、「ピアノのある家の数」「一台を調律する頻度」「調律師一人がこなせる台数」なら、それぞれおおよその見当をつけられます。分からない一つの数を、見当のつく複数の数に置き換えるわけです。
なぜおおまかな数で役に立つのか
「おおまかな数では意味がない」と感じるかもしれません。しかし、多くの判断は、正確な値よりも桁が分かれば十分です。たとえば、ある商品の需要が年に千個なのか百万個なのかが分かれば、事業として取り組むべきかの最初の判断はつきます。千二百個か千五百個かという違いは、その次の段階で考えればよいことです。
また、掛け算でつないだ見積もりには、誤差が打ち消し合いやすいという性質があります。ある要素を多めに見積もり、別の要素を少なめに見積もると、全体ではほどよい値に近づくことがよくあります。すべての要素が同じ方向にずれない限り、最終的な答えは思ったより大きく外れません。

フェルミ推定は、論理的に物事を分けて考える力とも深く結びついています。問題を要素に分ける考え方の基本は、ロジックツリーの作り方でも紹介しています。
進め方の全体像:五つの手順
フェルミ推定は、どの問いでもおおむね同じ流れで進めます。流れを決めておくと、初めての問いでも手が止まりにくくなります。

- 問いを定義する:何を数えるのか、範囲と期間をはっきりさせます。
- 式に分解する:求めたい数を、見当のつく要素の掛け算や足し算に分けます。
- 数字を置く:それぞれの要素に、根拠を添えて仮の数字を置きます。
- 計算する:切りのよい数を使い、桁を中心に計算します。
- 確かめる:別の道筋で計算し直したり、身近な感覚と比べたりして、おかしくないかを見ます。
初心者がつまずきやすいのは、1と2を飛ばしていきなり数字を考え始めることです。「何を数えるか」が曖昧なまま計算すると、途中で前提がぶれて、答えの意味が分からなくなります。以下では、それぞれの手順を詳しく見ていきます。
手順1:問いを定義する
最初に、問いの言葉の意味と範囲をはっきりさせます。たとえば「日本にピアノの調律師は何人いるか」という問いなら、次のような点を決めておきます。
- 調律師とは誰を指すか:調律を仕事にしている人に限るのか、楽器店の店員で調律もする人を含めるのか。
- ピアノの範囲:アップライトやグランドなどの生のピアノに限るか。電子ピアノは調律が要らないので外します。
- 期間:一年あたりの調律の回数で考えるのか。
定義が決まると、何を計算すればよいかが見えてきます。仕事の場面でも、「来月の問い合わせは何件くらいか」と聞かれたら、「電話とメールの両方か」「同じ人からの再問い合わせを数えるか」を確かめるところから始めると、後の手戻りが減ります。
定義を書き出しておく
定義は、頭の中だけで済ませず、紙の端に一行で書いておくと役立ちます。計算の途中で迷ったときや、他の人に説明するときに、前提を示せるからです。フェルミ推定の答えは、前提が違えば変わって当然のものです。前提を書いておけば、答えが違ったときにどこで考えが分かれたのかを確かめられます。










