フェルミ推定のやり方|式への分解と数字の置き方、桁で考える誤差の扱いと仕事での使いどころ
例題で手順を通してみる
ここからは、二つの例題で手順を通してみます。数字はあくまで考え方を示すための仮定で、実際の値とは違う可能性があります。
例題1:日本のピアノ調律師の人数
定義:生のピアノを調律する仕事をしている人の数。電子ピアノは含めない。一年の仕事量で考える。
分解:調律師の人数 = 一年に行われる調律の回数 ÷ 調律師一人が一年にこなす回数
数字を置く:
- 日本の世帯数を、およそ5千万世帯とします。
- 生のピアノがある世帯を、10世帯に1世帯くらいと仮定します。すると約500万台です。学校や教室のピアノもありますが、家庭よりは少ないと考え、全体で600万台とします。
- そのうち定期的に調律しているのは、半分くらいと仮定します。年に1回とすれば、一年の調律は約300万回です。
- 調律師一人は、移動を含めて一日に2〜3台、年に250日働くとします。一人あたり年に500〜750台、真ん中を取って約600台です。
計算:300万 ÷ 600 = 5,000
この見積もりでは、日本のピアノ調律師はおよそ5千人という答えになります。
確かめる:「調律しているのは半分」という仮定が、答えをいちばん大きく左右します。ほとんど調律されていないピアノが多いと考えれば、答えは数千人より少なくなります。公表されている団体の会員数などを調べて比べてみると、自分の仮定のどこがずれていたかが分かります。
例題2:会議一回にかかる人件費
仕事の場面でも、フェルミ推定は役立ちます。たとえば「週一回の定例会議には、一年でどのくらいの時間と費用がかかっているか」を考えてみます。
定義:定例会議の参加者が会議に使う時間の合計と、その時間を人件費に換算した額。準備の時間は含めない。
分解:一年の会議の時間 = 参加者の数 × 一回の時間 × 一年の回数
数字を置く:参加者を8人、一回を1時間、一年に50回とします。
計算:8人 × 1時間 × 50回 = 400時間
一人の一時間あたりの人件費を、仮に数千円と置けば、年に百万円を超える額になります。数字は会社によって大きく違いますが、「会議の時間を30分に縮めると、年に200時間浮く」という見当がつけば、会議の進め方を見直すきっかけになります。会議の目的と時間配分を書き出す方法は、会議の議題(アジェンダ)の書き方で紹介しています。

誤差を考える:桁で見る習慣
フェルミ推定の答えを評価するときは、「何桁目まで信じられるか」を意識します。多くの場合、信じられるのは最初の一桁くらいです。5,000人という答えは、「4,872人」という意味ではなく、「千人台の後半から一万人の手前くらい」という意味です。
感度の高い要素を見つける
すべての要素が、答えに同じだけ効くわけではありません。ある要素を2倍にしたときに答えも2倍になる要素と、ほとんど変わらない要素があります。答えを大きく動かす要素を「感度が高い」と言います。
感度の高い要素が分かると、次に何を調べればよいかがはっきりします。例題1なら、「調律している割合」と「ピアノのある世帯の割合」が答えを大きく左右するので、より正確な答えが必要になったら、この二つを優先して調べます。反対に、学校のピアノの台数を細かく調べても、答えはあまり変わりません。
幅を持たせて答える
答えは一つの数字だけでなく、「少なく見積もれば3千人、多く見積もれば1万人、中心は5千人くらい」というように幅を持たせて示すと、受け取る側も判断しやすくなります。仕事の見積もりでは、楽観的な場合、標準の場合、悲観的な場合の三つを出しておくと、計画の余裕を考えるのに役立ちます。










