ギリシャ建築の柱の見分け方|ドリス式・イオニア式・コリント式の基本
イオニア式|渦巻きのある優雅な柱
イオニア式は、エーゲ海の東側、現在のトルコの西海岸にあたるイオニア地方で発達した様式です。ドリス式とほぼ同じころから使われていたと考えられていますが、性格は大きく異なります。

イオニア式の特徴
いちばんの目印は、柱頭の左右に巻いた渦巻きです。正面から見ると、巻物の両端を内側に丸めたような形をしています。この渦巻きは正面と背面からはきれいに見えますが、横から見ると形が違って見えるため、建物の角にくる柱では、二つの面に渦巻きが見えるように工夫されることがありました。
柱身はドリス式より細く、高さに対して太さが控えめで、すらりとした印象です。足もとには、いくつかの丸い段を重ねた柱礎があります。縦の溝はドリス式より深く、溝と溝の間に細い平らな帯が残るように彫られます。この平らな帯のおかげで、柱の表面がやわらかく見えます。
梁の部分は、アーキトレーヴが二段か三段に分かれて少しずつ張り出す形が多く、フリーズにはトリグリフが無く、連続した帯状の浮き彫りが入ることがよくあります。全体として、細部の線が多く、軽やかで繊細な仕上がりです。
代表的な建物
アテネのアクロポリスでは、エレクテイオンやアテナ・ニケ神殿がイオニア式の代表です。特にエレクテイオンは、女性の像が柱の代わりに梁を支える一角(カリアティード)があることでも知られています。イオニア地方では、大規模な神殿がイオニア式で建てられましたが、多くは現在では基礎や一部の柱だけが残る姿になっています。
ウィトルウィウスは、ドリス式を男性の体の比率に、イオニア式を女性の体の比率になぞらえて説明しました。これは後世の解釈も含めて語られてきた話ですが、二つの様式の性格の違いをよく表したたとえとして、今でもよく引き合いに出されます。
コリント式|葉に包まれた華やかな柱頭
コリント式は、三つの中でいちばん新しく、いちばん装飾的な様式です。基本的な構成はイオニア式に近く、柱礎があり、柱身は細く、梁の部分もイオニア式とよく似ています。違いがはっきり出るのは、やはり柱頭です。
アカンサスの葉の柱頭
コリント式の柱頭は、逆さにした釣り鐘のような芯のまわりを、アカンサスという植物の葉が何段にも取り巻いた形をしています。葉の間からは細い茎が伸び、柱頭の四隅で小さな渦巻きになって、上の四角い板を支えます。四方どこから見ても同じ形に見えるため、イオニア式のように角の柱で困ることがありません。
ウィトルウィウスは、この柱頭の起こりについて、ひとつの逸話を書き残しています。亡くなった少女の墓にかごを置いたところ、その下からアカンサスが育ち、葉がかごを包み込んだ姿を見た彫刻家が、それを柱頭の形にした、というものです。史実かどうかはわかりませんが、柱頭の形をよく言い当てた話として知られています。
ギリシャよりローマで広まった
コリント式は古代ギリシャで生まれましたが、ギリシャでは神殿の内部や小さな記念碑に使われることが多く、外まわりの柱にまで使われる例は多くありませんでした。この様式を大きな建物の顔として好んで使ったのは、古代ローマの人々です。ローマの神殿や公共建築には、堂々としたコリント式の柱がよく使われました。
アテネに残るゼウス神殿(オリンピエイオン)の巨大な柱は、コリント式の代表としてよく挙げられます。長い年月をかけて完成したこの神殿は、ローマ時代に仕上げられたことでも知られています。

ローマで加わったトスカナ式とコンポジット式
古代ローマの建築家たちは、ギリシャの三つのオーダーを受け継ぎながら、自分たちの好みや技術に合わせて形を変えていきました。ルネサンス期になると、これらを整理して「五つのオーダー」としてまとめる考え方が広まります。新しく加わったのが、トスカナ式とコンポジット式です。
- トスカナ式:ドリス式をさらに簡素にしたような様式で、柱身に溝を彫らず、柱礎を持ち、フリーズにも飾りがほとんどありません。イタリアの古い民族であるエトルリア人の建築に由来すると説明されることが多い様式です。
- コンポジット式:「混合式」の意味で、コリント式のアカンサスの葉の上に、イオニア式の大きな渦巻きを重ねた柱頭を持ちます。凱旋門など、とりわけ華やかさを求める建物に使われました。
ローマのドリス式は、ギリシャのものと違って柱礎を持つことが多く、柱身もやや細くなります。そのため、ローマ風やルネサンス以降の建物では、「柱礎が無いからドリス式」という見分け方はあてはまらないことがあります。柱頭と梁の飾りを優先して見るのが確実です。
| 様式 | 柱頭 | 溝 | 印象 |
|---|---|---|---|
| トスカナ式 | ドリス式に似た簡素な形 | 無いのが基本 | 素朴で頑丈 |
| ドリス式 | お皿と四角い板 | あることが多い | 力強い |
| イオニア式 | 左右の渦巻き | ある | 優雅 |
| コリント式 | アカンサスの葉 | ある | 華やか |
| コンポジット式 | 葉の上に大きな渦巻き | ある | いちばん装飾的 |
五つを素朴な順に並べると、トスカナ式、ドリス式、イオニア式、コリント式、コンポジット式になります。ルネサンス以降の建物では、この順番を利用して、一階に重厚な様式、上の階ほど軽やかな様式を重ねて使う手法もよく見られます。古代ローマのコロッセウムの外壁にも、階ごとに違う様式の柱が重ねられています。










