ギリシャ建築の柱の見分け方|ドリス式・イオニア式・コリント式の基本
柱に隠された目の工夫
ギリシャの神殿は、遠くから見たときに美しく見えるよう、まっすぐに見える部分にもわずかな調整が加えられていたことが知られています。代表的なのが、柱のふくらみと傾きです。
エンタシス
ギリシャの神殿の柱は、下から上へ単純に細くなるのではなく、途中で少しだけふくらむような曲線を描くものがあります。これをエンタシスと呼びます。まっすぐに細くしただけの柱は、遠くから見ると中ほどがくびれて弱々しく見えることがあり、それを補うための工夫だと説明されます。ふくらみはごくわずかで、近くで見てもなかなか気づかない程度です。
日本では、法隆寺の柱の中ほどがふくらんだ形が、エンタシスと似ていると紹介されることがあります。シルクロードを通じて伝わったのではないかという説が語られた時期もありますが、直接のつながりを示す確かな証拠はなく、似た工夫が別々に生まれたと考える見方もあります。話の種として楽しみつつ、断定は避けておくのがよいでしょう。
傾きと反り
パルテノン神殿では、柱がほんのわずかに内側へ傾けられていたり、基壇の床の中央が少し盛り上がっていたりと、目に見えないほどの調整が重ねられていることが調査で知られています。こうした工夫の目的については、目の錯覚を補うため、雨水を流すため、建物全体に張りを持たせるためなど、いくつかの説明があります。
遺跡や歴史的建造物を見学するときは、柵やロープの内側に入ったり、柱や彫刻に触れたり寄りかかったりしないようにしましょう。表面の小さな傷や手の脂も、長い年月の間には劣化の原因になります。見学のルールは場所ごとに違うので、現地の案内や公式の情報を確かめてください。
近代建築で柱を見るときのポイント
古典的なオーダーは、ギリシャやローマの遺跡だけのものではありません。ルネサンス以降のヨーロッパでは、古代を手本にした古典主義の建築が繰り返し建てられ、その流れは明治以降の日本にも届きました。銀行や官庁、大学の講堂、博物館や図書館など、格式や信頼感を表したい建物に、オーダーを手本にした柱が多く使われています。
日本の近代建築で柱を見るときは、次の順番で観察すると、様式の手がかりが拾いやすくなります。
- 建物の正面に立ち、柱の数と並び方を確かめる。柱が建物から独立して立っているか、壁に半分埋め込まれた付け柱かを見る。
- 柱頭を見て、お皿型か、渦巻きか、葉の飾りかを判断する。
- 足もとの柱礎と、柱身の溝の有無を確かめる。
- 柱の上の梁の部分に、縦じまの板(トリグリフ)があるか、連続した帯があるかを見る。
- 一階と上の階で柱の様式が違うかどうか、建物全体での使い分けを見る。

付け柱は、壁から半分だけ出た柱や、平らな板状の柱のことで、構造としてより、建物の表情を整える飾りとして使われます。平らな付け柱はピラスターとも呼ばれ、柱頭の形だけがきちんとオーダーの型どおりに作られていることがよくあります。正面だけでなく、建物の角や窓まわりにも目を向けると、小さなオーダーが隠れていることがあります。
日本の近代建築では、限られた材料や予算の中で、オーダーをそのまま写すのではなく、簡略化したり、組み合わせたりした柱も多く見られます。型から外れている部分を見つけるのも、楽しみ方のひとつです。どの様式を手本にしたのかを考えながら見ると、設計した人の意図が少し見えてきます。
見学と写真を楽しむコツ
柱の様式は、少し離れて全体を見ることと、近づいて細部を見ることの両方で楽しめます。見学のときに意識しておくとよいことをまとめます。
離れて見る、近づいて見る
まずは建物の正面から少し距離をとって、柱の並び方や太さ、上に載る梁や三角形の部分との釣り合いを見ます。ドリス式の重厚さやコリント式の華やかさは、全体を眺めたときにいちばんよく伝わります。そのあと近づいて、柱頭の彫刻の細かさや、溝の彫り方、柱礎の段の形を観察します。
柱頭は高い位置にあるので、肉眼では細部が見えにくいことがあります。双眼鏡があると、葉の重なりや渦巻きの彫り方までよく見えます。双眼鏡の選び方は双眼鏡の選び方|倍率・口径・明るさの読み方でも紹介しています。
写真に残すとき
写真に撮るときは、建物全体、柱一本の全身、柱頭のアップの三枚を組み合わせると、あとで見返したときに様式がわかりやすくなります。見上げて撮ると柱が先すぼまりに写るので、全体の比率を見たいときは、少し離れて水平に近い角度から撮るのがおすすめです。
撮影が許されているかどうか、三脚が使えるかどうかは、施設ごとに決まりがあります。人の多い場所では、通路をふさがないよう配慮しましょう。旅先での撮影の心がけは観光地での写真撮影マナーも参考になります。
柱の数と並び方も見てみる
様式に慣れてきたら、柱の並び方にも目を向けてみましょう。ギリシャの神殿は、神像を安置する部屋(ケラ)を中心に、そのまわりや正面に柱を並べる造りでした。並べ方にはいくつかの型があり、建物の格や大きさを表しています。
- 正面だけに柱を並べた神殿:小さな神殿や宝庫に多い形です。
- 前と後ろの両方に柱を並べた神殿:アテナ・ニケ神殿のような小ぶりの神殿に見られます。
- 四方をぐるりと柱で囲んだ神殿:周柱式と呼ばれ、大きな神殿の代表的な形です。
正面に並ぶ柱の数も、見るときの手がかりになります。ギリシャの大きな神殿では正面の柱は六本が多く、パルテノン神殿は八本という堂々とした構えです。柱の数は偶数にして、正面の中央に柱ではなく柱と柱の間が来るようにするのが基本でした。近代の建物でも、正面の柱の数や、中央の入口に柱の間がそろえられているかを数えてみると、古典を手本にした意図が見えてきます。
よくある勘違い
- 白い大理石の神殿は、もとから白一色だったと思われがちですが、古代には彫刻や建物の一部に彩色が施されていたことが調査でわかっています。
- 柱が丸ければすべてギリシャ風、というわけではありません。柱頭の形が無い、またはオーダーの型と違う柱も多くあります。
- 柱が一本だけ立っている記念柱や、教会の内部の柱は、別の時代の様式が混ざっていることがあります。中世の教会建築の柱についてはロマネスクとゴシックの見分け方で紹介しています。
もっと深く知りたい人へ
オーダーに興味が出てきたら、次のような方向に広げていくと、見え方がさらに豊かになります。
- 比率に注目する:柱の太さを一とすると高さはいくつか、柱と柱の間隔はどのくらいか、という比率は様式ごとに目安があります。同じ様式でも時代によって比率が変わるので、写真を並べて比べると変化がよくわかります。
- ルネサンス以降の建築書を読む:ルネサンスの建築家たちは、古代の建物を測り、オーダーの比率を図にまとめた本を残しました。図版の多い解説書は図書館でも探せます。
- 博物館の模型や復元図を見る:遺跡の多くは柱や基礎だけが残っています。博物館の模型や復元図で、もとの屋根や彩色を想像すると、遺跡の見え方が変わります。
- 身近な建物で探す:駅や銀行、学校の古い校舎などにも、オーダーをまねた柱があります。散歩のついでに柱頭を見上げる習慣をつけると、意外な場所で見つかります。
建築の様式は、柱だけでなく、窓やアーチ、屋根の形とも結びついています。オーダーで「柱を読む」感覚が身につくと、ほかの部分の様式も理解しやすくなります。
まとめ
ギリシャ建築の柱は、柱頭を見るのが見分けの第一歩です。お皿と四角い板だけならドリス式、左右に渦巻きがあればイオニア式、アカンサスの葉に包まれていればコリント式。さらにローマで、簡素なトスカナ式と、葉と渦巻きを重ねたコンポジット式が加わりました。
柱礎や溝、梁の上の飾りは、時代や地域によって変わることがあるので、柱頭で見当をつけてからほかの部分で確かめると迷いにくくなります。最初の一歩として、近くにある明治から昭和初めごろの洋風建築をひとつ選び、正面の柱頭を見上げて、三つのどれに近いかを確かめてみてください。
よくある質問
三つの様式をいちばん簡単に見分ける方法は?
柱のいちばん上の部分、柱頭を見るのが早道です。平たいお皿のような形ならドリス式、左右に渦巻きがあればイオニア式、葉の飾りが盛り上がっていればコリント式です。
オーダーとはどういう意味ですか?
柱と、その上に載る梁の部分をひとそろいにした決まりごとのことです。柱だけでなく、柱の太さと高さの比率や、梁の飾り方まで含めた「型」を指します。
パルテノン神殿は何式ですか?
外まわりの柱はドリス式です。ただし、内部の一部や帯状の彫刻にはイオニア式の要素も取り入れられていて、二つの様式が組み合わされた建物として知られています。
法隆寺の柱はエンタシスと関係がありますか?
法隆寺の柱の中ほどがふくらんだ形が、ギリシャのエンタシスと似ていると紹介されることがあります。ただ、両者に直接のつながりがあったかどうかは確かめられておらず、似た工夫が別々に生まれたと考える見方もあります。
日本で古典的な柱を見られる場所はありますか?
明治から昭和の初めごろに建てられた銀行や官庁、大学の講堂、博物館などの洋風建築に、オーダーを手本にした柱が多く使われています。外観を見学できる建物も多いので、近くの近代建築を探してみるとよいでしょう。










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