日本の伝統色の名前と由来|藍・紅・茜の染料、四十八茶百鼠、色名の読み方と楽しみ方
植物と生き物から来た色名
植物の色名
植物から来た色名は、花や葉が最も美しい季節を思い起こさせるものが多くあります。桜色は桜の花びらのごく淡い紅色、山吹色は山吹の花の鮮やかな黄色、藤色は藤の花の淡い青紫です。若竹色は若い竹の明るい緑、柳色は柳の葉の黄みを帯びた緑を表します。
植物の色名を覚えるときは、実物を思い浮かべるのがいちばんの近道です。ただし、花の色は品種や見る時期で変わります。桜色が想像より白っぽく感じられるのは、山に咲く桜の花びらの淡さが元になっているためとも言われます。
生き物の色名
鳥の名前を持つ色も多くあります。鴇色(ときいろ) は、トキの風切羽の内側に見られる淡い桃色です。トキが日本の空を普通に飛んでいた時代には、身近な色だったと考えられています。鳶色(とびいろ) は、トビの羽のような赤みを帯びた暗い茶色です。鶸色(ひわいろ) は、マヒワという小鳥の羽の、鮮やかな黄緑色を指します。
鶯色(うぐいすいろ) は、とくに誤解されやすい色です。伝統色の鶯色は、ウグイスの羽の、茶色みを帯びたくすんだ緑色とされます。うぐいす餅などで思い浮かべる明るい黄緑色とは、かなり印象が違います。明るい黄緑の鳥としてよく思い浮かべられるのは、別の鳥であるメジロのほうです。
食べ物や道具の色名
小豆色(あずきいろ)は小豆の赤みのある茶色、煤竹色(すすたけいろ)は、いろりの煙でいぶされた竹のような暗い茶色です。道具や暮らしの風景から生まれた色名には、当時の生活の様子がうかがえるものが多くあります。
| 色名 | 読み方 | 由来 | 色の印象 |
|---|---|---|---|
| 鴇色 | ときいろ | トキの羽 | 淡い桃色 |
| 鳶色 | とびいろ | トビの羽 | 赤みの暗い茶 |
| 鶯色 | うぐいすいろ | ウグイスの羽 | くすんだ緑 |
| 鶸色 | ひわいろ | マヒワの羽 | 鮮やかな黄緑 |
| 山吹色 | やまぶきいろ | 山吹の花 | 鮮やかな黄 |
| 煤竹色 | すすたけいろ | いぶされた竹 | 暗い茶 |
人の名前と流行から来た色名|四十八茶百鼠と役者の色
茶と鼠の色名
江戸時代に広まった茶色と鼠色の色名には、組み合わせの言葉が多く見られます。たとえば、鼠色に別の色みを加えた「藍鼠」「桜鼠」「銀鼠」、茶色の微妙な違いを表す「焦茶」「白茶」などです。わずかな違いに名前を付けることで、地味に見える色の中に豊かな変化を見いだしました。
「茶色」という名前は、お茶の葉を煎じた液で染めた色から来たと言われます。もともとは、今思い浮かべる茶色より、さまざまな色みを含む呼び名だったと考えられています。
人の名前が付いた色
江戸時代には、人気の歌舞伎役者が舞台で身につけた色が流行し、役者の名前を冠した色名が生まれました。初代市川團十郎にちなむとされる「団十郎茶」は、柿渋で染めたような赤みのある茶色です。ほかにも、役者の俳名から来た「路考茶」などがよく知られています。歌舞伎の舞台の楽しみ方は、歌舞伎の見方でも紹介しています。
「利休鼠」は、茶人の千利休の名前を冠した、緑みを帯びた鼠色です。ただし、利休自身がこの色を好んだという確かな記録があるわけではなく、侘びた趣のある色に利休の名を当てた、後の時代の命名とする見方もあります。人の名前が付いた色名は、由来の伝え方に幅があることを知っておくとよいでしょう。
色名の由来には、言い伝えや後の時代の解釈が含まれることがよくあります。由来を人に説明したり文章に書いたりするときは、「〜とされる」「〜と言われる」と、断定を避けた書き方にしておくと安心です。
平安の装いと襲の色目
襲の色目とは
平安時代の宮廷では、衣を何枚も重ねて着る装いが正装でした。重ねた衣の襟元や袖口には、それぞれの色が少しずつのぞきます。この色の組み合わせを「襲の色目」と呼び、季節の植物などの名前を付けて楽しみました。
襲の色目には、一枚の衣の表地と裏地の色の組み合わせを指す場合と、何枚も重ねた衣の色の組み合わせを指す場合があります。どちらの意味で使っているかは、資料によって異なります。
季節と色目
襲の色目には、梅、桜、山吹、藤、卯の花、紅葉など、季節の植物の名前が多く付けられています。それぞれの色目は、その季節に着るのがふさわしいとされました。季節を先取りした装いは好まれる一方、季節外れの色目は趣味がよくないと見られたと言われます。
同じ名前の色目でも、資料によって組み合わせる色が異なることがあります。これは、時代や家によって伝わった色目に違いがあったためと考えられています。色目の正確な組み合わせを知りたいときは、どの資料に基づくものかを確かめることが大切です。
現代につながる考え方
季節を先取りする考え方や、季節に合わせて配色を変える考え方は、今の着物や和菓子、室礼(しつらい)にも受け継がれています。俳句の季語と同じように、色にも季節の言葉としての働きがあると考えると、伝統色が身近に感じられます。季語の考え方は俳句の始め方でも扱っています。











