スポンサーリンク
歴史・文化

お屠蘇の由来と飲み方|屠蘇散の浸し方、年少者から飲む順番、飲めない人の祝い方

お屠蘇は正月の日本酒とは別の、生薬を浸した薬酒です。名前の意味、中国から平安の宮中へ伝わった道筋、屠蘇散の中身、酒と本みりんの割合、屠蘇器の扱い、年少者から飲む順番の理由を説明します。子どもや運転する人、お酒が飲めない人の祝い方もまとめました。

朱塗りの銚子と三つ重ねの盃、松の小枝

元日の朝、朱塗りの銚子から小さな盃に注がれる、少し甘くて薬のような香りのする飲み物。お屠蘇は、子どものころに形だけ口をつけた記憶はあっても、中身が何なのかまでは知らないまま大人になる人が多い正月の習慣です。日本酒をお屠蘇と呼ぶ家もあり、本来の姿が見えにくくなっています。

お屠蘇は、生薬を酒やみりんに浸した薬酒です。作るのに特別な技術は要らず、屠蘇散の袋を一つ用意して大晦日の夜に浸すだけで、元日の朝に間に合います。この記事では、名前の意味と伝来の歴史、屠蘇散の中身、家庭での作り方、屠蘇器の扱い、飲む順番、飲めない人の祝い方までを順に説明します。

お屠蘇はアルコールを含む飲み物です。20歳未満の人、運転する予定のある人、妊娠中や授乳中の人、持病で薬を飲んでいる人は、この記事の「飲めない人の祝い方」の節を先に読んでください。

スポンサーリンク

お屠蘇は「正月の酒」ではなく薬酒

名前は鬼を屠るという意味で説明されます

屠蘇という字は、「屠」が屠る(ほふる)、「蘇」が病をもたらす鬼を指すとして、邪気を払う意味で説明されるのが一般的です。もう一つ、邪気を屠って魂を蘇らせるという読み解きも見られます。ただ、語源については古くから諸説あり、中国の伝説では草庵の名前に由来するという話もあります。どれか一つが確かだと言い切れるものではないので、「邪気を払い、一年の無病長寿を願う薬酒」と理解しておくのがよいでしょう。

正式な名前として「屠蘇延命散」という呼び方も紹介されています。この場合は、酒に浸す前の生薬の配合が屠蘇散で、それを浸した飲み物がお屠蘇です。買うときは屠蘇散、飲むときはお屠蘇、と分けて覚えると混乱しません。

日本酒だけを「お屠蘇」と呼ぶ家もあります

正月に飲む酒そのものを屠蘇と呼ぶ地域や家庭は少なくありません。酒を注いで「お屠蘇をどうぞ」と勧める場面は、言葉としてすっかり定着しています。祝いの気持ちは同じなので、間違いと決めつける必要はないでしょう。ただ、本来のお屠蘇は香辛料に近い香りがあり、日本酒とは別の味がします。一度も飲んだことがなければ、小さな一袋から試す価値があります。

お屠蘇を形づくる三つの要素(屠蘇散、酒とみりん、元日の作法)
正月の酒との違いは、生薬が入ることです。

中国の薬酒から平安の宮中へ

中国では邪気払いの飲み物でした

お屠蘇の起こりは中国にあります。三国時代の名医、華佗(かだ)が処方を考えたという話が伝わっていますが、これは言い伝えの域を出ません。確かめやすいのは、6世紀ごろの中国の年中行事の記録『荊楚歳時記』に、正月一日に屠蘇酒を勧める記事があることです。この時代にはすでに、新年に飲んで邪気を避ける飲み物になっていたと考えられています。

中国の習わしとしては、大晦日に薬の袋を井戸に吊るしておき、元日の明け方に引き上げて酒に浸す方法が伝えられています。正月に新しい水を汲む行事とも重なる、印象深い手順です。のちに日本の宮中の説明にも、緋色の袋に入れて井戸に吊るしたとする話が見られます。

スポンサーリンク

平安の宮中で元日の儀式になります

日本へは平安時代に伝わり、宮中の元日の行事に取り入れられたとされます。平安時代中期にまとめられた『延喜式』には、元日の御薬として白散(びゃくさん)、度嶂散、屠蘇の名が並びます。屠蘇は、もともと三種の薬の一つだったわけです。

天皇が飲む前には、薬子(くすりこ)と呼ばれる毒見の役が先に口をつけたと伝えられています。古い処方には烏頭(うず)のような作用の強い生薬が含まれていたとする説明もあり、ただの形式というだけではなかったのかもしれません。この点はあとで述べる、「自分で生薬を集めない」という注意にもつながります。

貴族から庶民の正月へ広がります

宮中の外へ広がっていた様子は、紀貫之の『土佐日記』からうかがえます。承平4年(934年)の年末、任地の土佐から都へ帰る旅の途中で、医師がわざわざ屠蘇と白散を酒とともに届けてくれたことが書かれています。10世紀には、地方の役人の周辺にも年末に薬を贈る習慣があったことになります。

南北朝時代の二条良基が関わった歌合の記録には、屠蘇白散について、一人が飲めば一家に病がなく、一家が飲めば一里に病がない、という趣旨の言葉が見えます。誰か一人の健康ではなく、家や地域全体の無事を願う飲み物と考えられていたことが分かります。「一家そろって飲む」という現代の形にも、この考え方が残っています。

江戸時代には、庶民の正月にも定着していったとされます。現在も、年末に薬局や酒を扱う店で屠蘇散が売られているのは、この習慣の続きです。

屠蘇散の中身を知る

数種の生薬を合わせた配合です

屠蘇散は、乾燥した生薬を刻んで小さな袋に詰めたものです。配合は製品や時代によって違い、決まった一つの処方があるわけではありません。よく見られる生薬と、香りや味の印象を表にまとめます。

生薬 もとになるもの 味や香りの印象
山椒(さんしょう) サンショウの果皮 しびれるような爽やかな香り
肉桂(にっけい) クスノキ科の樹皮 シナモンに似た甘い香り
陳皮(ちんぴ) ミカンなどの皮を干したもの 柑橘のほろ苦さ
丁子(ちょうじ) チョウジの蕾 クローブの深い香り
桔梗(ききょう) キキョウの根 土のような苦み
白朮(びゃくじゅつ) キク科オケラ類の根茎 薬らしい落ち着いた香り
防風(ぼうふう) セリ科植物の根 ほのかな甘みと苦み

山椒、肉桂、丁子、陳皮は料理の香辛料としてもなじみがあるので、スパイスの入った甘い酒と考えると味を想像しやすいでしょう。スパイスの調合に興味のある人なら、香りの重なりを聞き分ける楽しみもあります。

スポンサーリンク

効能の説明は慎重に読みます

生薬にはそれぞれ漢方で語られる働きがあり、屠蘇も胃腸を整えるものとして紹介されることがあります。ただ、お屠蘇は正月に盃で少量を飲むもので、飲めば風邪をひかないといった効果を期待するものではありません。願いを込めて飲む行事の飲み物、と捉えるのが無理のない理解です。

生薬はまれに体質に合わないことがあり、香辛料や特定の植物にアレルギーがある人は、原材料の表示を確かめます。持病の薬を飲んでいる人は、医師や薬剤師に確認すると安心です。

自分で集めて調合しないでください

キキョウやオケラ、ボウフウと呼ばれる植物は、山野に生えているものもあります。しかし、見分けを誤ると有毒な植物を口にする危険があります。乾燥の状態や使う部位も素人には判断できません。古い処方に強い生薬が含まれていた例もあるので、昔の資料を見て再現しようとするのも避けてください。屠蘇散は市販の製品を、表示された使い方で使います。

屠蘇散の買い方

屠蘇散は12月に入るころから、薬局、酒を扱う店、スーパーの酒売り場などに並びます。袋の数や使う酒の量は製品で異なるので、買うときに次の点を確かめます。

  • 1袋で何mLの酒に対応しているか
  • 浸す時間の目安
  • 原材料(生薬の種類)
  • 医薬品か食品か、どちらの扱いの製品か

年末の買い物の終わり際に探すと売り切れていることもあるので、おせちの材料をそろえる時期に一緒に買っておくと確実です。年末に屠蘇散を配る店もあるようです。

次のページへ家庭での作り方
スポンサーリンク
  1. 秋の戸口に並ぶかぼちゃの明かりとかぶ、麦束
  2. 冬の木で越冬する卵のうやミノムシ、テントウムシ
  3. 酉の市で縁起熊手の店を眺める人々の後ろ姿
  4. ノートパソコンと資料、外付け記憶装置がある机
  5. 灯明と花びらの模様で飾られた夜の玄関先