勤労感謝の日と新嘗祭|新米を神に供える祭りが、11月23日の祝日になるまで
各地に残る収穫の行事
宮中や神社の新嘗祭とは別に、日本の各地には、稲刈りの後に田の神に感謝する民間の行事が残っています。地域ごとに名前もやり方も違い、比べてみると、収穫への感謝が暮らしの中でどう表されてきたかがよくわかります。

東日本の「十日夜(とおかんや)」
十日夜は、主に東日本で旧暦10月10日に行われてきた行事です。田の神が山へ帰る日とされ、子どもたちが藁を束ねた「藁鉄砲」で地面をたたきながら家々を回ったり、田で働いた案山子に餅を供えて労ったりする地域があります。地面をたたくのは、土の中のもぐらを追い払い、土地の力を呼び覚ますためと説明されます。
西日本の「亥の子(いのこ)」
亥の子は、主に西日本で旧暦10月の亥の日に行われてきた行事です。亥の子餅を食べて無病息災や子孫繁栄を願い、子どもたちが縄を付けた石で地面をついて回る地域もあります。亥は火を防ぐ動物と考えられていたことから、この日にこたつや火鉢を出し始めると火事にならない、という言い伝えもあります。
能登の「あえのこと」
石川県の奥能登に伝わる「あえのこと」は、収穫を終えた冬に、田の神を家に迎えてもてなす行事です。家の主人が、目に見えない田の神がそこにいるかのように風呂をすすめ、ごちそうを一品ずつ説明しながら供えます。田の神は家で冬を越し、春になると再び田へ送り出されます。国の重要無形民俗文化財で、ユネスコの無形文化遺産にも登録されています。
刈り上げ祝いと霜月祭
このほか、稲刈りが終わったことを祝って餅をついたり、親類や手伝ってくれた人を招いて食事をしたりする「刈り上げ祝い」も、各地で広く行われてきました。また、山あいの地域には、冬の始まりに湯を沸かして神に捧げ、弱まった太陽と人の力をよみがえらせようとする「霜月祭」が伝わるところもあります。
| 行事 | 主な地域 | 時期の目安 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 十日夜 | 東日本 | 旧暦10月10日 | 藁鉄砲で地面をたたく、案山子を労う |
| 亥の子 | 西日本 | 旧暦10月の亥の日 | 亥の子餅を食べる、石で地面をつく |
| あえのこと | 奥能登 | 12月と2月 | 田の神を家に迎えてもてなす |
| 刈り上げ祝い | 各地 | 稲刈りの後 | 餅をつき、手伝った人と食事をする |
| 新嘗祭 | 宮中と各地の神社 | 11月23日 | 新穀を供え、共に味わう |
どの行事にも共通しているのは、収穫を「人の力だけで得たもの」と考えず、田の神や自然の恵みとして受け止め、きちんと礼を尽くしてから次の季節に進むという姿勢です。勤労感謝の日の「生産を祝い」という言葉の背景には、こうした暮らしの感覚が流れています。
神社の新嘗祭に参拝するとき
11月23日やその前後の日に、近くの神社で新嘗祭が行われることは珍しくありません。祝日を利用して、足を運んでみるのもよい過ごし方です。
行われる日と時間を確かめる
多くの神社は11月23日に新嘗祭を行いますが、日にちをずらす神社や、収穫祭など別の名前で行う神社もあります。祭典の時間も神社によって違います。神社の掲示板や案内、ウェブサイトなどで、事前に確認しておくと安心です。
参列と参拝の違い
神社の新嘗祭では、社殿の中で神職が祭典を行い、氏子の代表や崇敬者が参列するのが一般的です。祭典の場に入れるのは、あらかじめ申し込んだ人や関係者に限られることもあります。一方で、境内に入って拝殿の前でお参りすることは、ふだんどおりにできることがほとんどです。
祭典の最中は、拝殿の前が祭りの場になっていることがあります。その場合は、祭典が終わるまで少し離れた場所で静かに待つか、時間をずらしてお参りしましょう。
参拝の流れとマナー
新嘗祭の日だからといって、特別な作法が必要なわけではありません。鳥居の前で一礼し、手水で手と口を清め、拝殿で二礼二拍手一礼をする、というふだんの参拝で大丈夫です。手順に不安がある場合は、神社とお寺の参拝作法の記事も参考にしてください。

祭典中の撮影や、神前に供えられた物に触れることは控えましょう。収穫物を奉納したい場合は、受け付けているかどうかや決まりを、前もって神社に問い合わせてください。
家庭で過ごす勤労感謝の日
勤労感謝の日の過ごし方に、決まった形はありません。それでも、新嘗祭の由来を知ったうえで過ごすと、ただの休日とは少し違う一日になります。
新米を味わう
新嘗祭の中心は「新しい米を味わうこと」です。この時期は新米が出回る季節でもあるので、炊きたての新米を家族で囲むのは、由来にかなった過ごし方といえます。新米は水分が多いので、炊くときの水を少し控えめにするとよい、といわれます。鍋で炊いてみたい人は、鍋でご飯を炊く方法を参考にしてください。
おかずも、旬の根菜やきのこ、秋の魚など、その季節にとれたものを選ぶと、「実りを祝う」という気分が自然に出てきます。
身近な人に感謝を伝える
法律にある「国民たがいに感謝しあう」という言葉どおり、ふだん言いそびれている感謝を伝える日にするのもよいでしょう。家族の誰かが毎日していることを、この日だけ代わってみる。子どもと一緒に、身の回りで働いている人を思い浮かべて手紙を書く。大げさなことでなくても、日ごろの仕事に目を向けるきっかけになります。
子どもと由来を話してみる
勤労感謝の日の由来は、子どもに季節の行事を伝える題材としても向いています。「お米はどうやって家に届くのか」「昔の人は収穫のあと何をしていたのか」といった話から始めると、田んぼの仕事や新嘗祭の話へ自然につながります。
同じ秋の行事として、七五三や海外の感謝祭(サンクスギビング)の話と比べてみるのもおもしろいでしょう。感謝祭も収穫を感謝する行事として始まりましたが、家族が集まって大きな食事をする点に重きが置かれています。

よくある誤解
最後に、勤労感謝の日と新嘗祭について、よく聞かれる誤解を整理しておきます。
一つめは、「勤労感謝の日は、働いている人が休む日」という考え方です。休む人が多いのはたしかですが、法律の趣旨は、働くことを尊び、生み出されたものを祝い、互いに感謝し合うことにあります。休むかどうかより、感謝を向ける日と考えるほうが由来に近いといえます。
二つめは、「新嘗祭はもう行われていない」という思い込みです。戦後に祝日の名前は変わりましたが、宮中でも各地の神社でも、新嘗祭は毎年続いています。
三つめは、「新嘗祭と神嘗祭は同じもの」という混同です。どちらも新穀を供える祭りですが、神嘗祭は10月の伊勢神宮の祭り、新嘗祭は11月の宮中と各地の神社の祭りで、別のものです。
まとめ
勤労感謝の日は、その年にとれた新しい米を神に供え、共に味わう新嘗祭の日をもとにした祝日です。旧暦11月の卯の日に行われていた祭りが、明治6年の改暦で11月23日に固定され、戦後に「勤労をたつとび、生産を祝い、国民たがいに感謝しあう」日として名前と趣旨が整え直されました。宮中や各地の神社では、いまも新嘗祭が続いています。
今年の11月23日は、まず近くの神社で新嘗祭が行われるかどうかを調べてみてください。行われるなら境内でお参りをし、帰ったら新米を炊いて、ふだんお世話になっている人に一言お礼を伝える。それだけで、千年以上続いてきた「実りに感謝する日」を、自分の暮らしの中で過ごすことができます。
よくある質問
新嘗祭は何と読むのですか?
一般には「にいなめさい」と読みます。「しんじょうさい」と読まれることもあります。「新」は新しい穀物、「嘗」は味わうことを表し、その年にとれた穀物を神に供えて味わう祭りという意味です。
勤労感謝の日はなぜ11月23日なのですか?
宮中の新嘗祭が、明治の初めから11月23日に行われてきたためです。もとは旧暦11月の卯の日に行う祭りでしたが、明治6年に暦が太陽暦に変わったとき、その年の該当する日が11月23日だったことから、以後はこの日に固定されました。戦後、その日が勤労感謝の日という祝日になりました。
勤労感謝の日は月曜日に移動しますか?
移動しません。勤労感謝の日は11月23日に固定された祝日で、成人の日などのように月曜日へ移す制度の対象ではありません。日曜日に重なった年は、翌日の月曜日が振替休日になります。
新嘗祭と神嘗祭はどう違うのですか?
神嘗祭は10月に伊勢神宮で行われる祭りで、その年の新穀を天照大神に供えます。新嘗祭は11月に宮中や各地の神社で行われ、天皇が新穀を神々に供え、自らも味わいます。どちらも新穀を供える祭りですが、場所と時期と中身が違います。
神社の新嘗祭には一般の人も参拝できますか?
11月23日前後に新嘗祭を行う神社は多く、境内で参拝することはふつうにできます。ただ、祭典の場に参列できるかどうかは神社によって違い、氏子や崇敬者に限ることもあります。参列を考えている場合は、事前に神社の案内を確かめると安心です。










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