お雑煮の地域差|丸餅と角餅の境目、すまし・白味噌・小豆の違いと全国の雑煮
汁の味は三つに分けて考える
餅の形と同じくらい違うのが汁です。細かく分ければ切りがありませんが、大きくは三つに分けて考えると整理しやすくなります。
すまし仕立て
昆布やかつお節、煮干し、地域によってはあご(とびうお)や焼きはぜのだしに、醤油と塩で味をつけます。全国で見ると最も広い地域で見られる形です。東日本の多くと、九州や中国地方の一部がこれにあたります。
すまし仕立ての雑煮は、だしの材料に土地の個性が出ます。醤油の味はどこも似ているように思えますが、だしが変わると印象はかなり変わります。だしの基本はだしの取り方の基本にまとめています。
味噌仕立て
代表は、京都を中心とする近畿の白味噌仕立てです。丸餅を煮て、甘みのある白味噌の汁に入れます。白味噌は米麹の割合が高く塩分が控えめで、京都の公家の文化とともに好まれたといわれます。四国の香川などにも白味噌の雑煮が見られます。
赤味噌や合わせ味噌の雑煮もありますが、全国で見ると少数です。「味噌=西日本」と言い切れるほど単純ではなく、西日本の中でも中国地方や九州にはすまし仕立てが広く見られます。
小豆仕立て
山陰の一部には、やわらかく煮た小豆の汁に丸餅を入れる雑煮があります。味も見た目もぜんざいに近い料理です。小豆の赤い色には邪気を払う力があると考えられてきました。
| 分類 | 汁の特徴 | 見られる主な地域の例 | 合う餅 |
|---|---|---|---|
| すまし仕立て | だしと醤油・塩。だしの材料で個性が出る | 関東、東北、九州など広い範囲 | 焼いた角餅が多いが、丸餅の土地もある |
| 白味噌仕立て | 甘みがあり、とろりとした汁 | 京都を中心とする近畿、香川など | 煮た丸餅が多い |
| 小豆仕立て | 甘く煮た小豆の汁 | 鳥取、島根の一部 | 丸餅 |
この表は大まかな傾向で、同じ県でも海沿いと山間部で違うことがよくあります。
全国の雑煮を地方ごとに見る
ここからは、土地の特色がよく表れた雑煮を北から順に見ていきます。一つの県に一つの雑煮があるわけではないので、よく紹介される例として読んでください。
東北
岩手の沿岸に近い地域などで知られるくるみ雑煮は、食べ方に特徴があります。大根やにんじん、ごぼう、凍み豆腐などが入ったしょうゆ味の雑煮を作り、焼いた餅を、別の小皿に用意した甘いくるみだれにつけて食べます。
宮城の仙台周辺では、焼いて干したはぜでだしを取り、せん切りにして凍らせた大根やにんじん(ひき菜)を入れ、はらこ(いくら)をのせた雑煮が知られています。海の幸と保存の工夫が一杯の中に同居しています。
関東・甲信越
東京の雑煮は、鶏肉と小松菜、かまぼこなどを入れたすまし汁に、焼いた角餅を合わせる形が基本です。江戸の武家が「菜」と「鶏」を「名を取る」に重ねて縁起をかついだともいわれます。
新潟では、鮭やいくらを入れた雑煮が知られています。鮭は新潟の冬の暮らしと関わりの深い魚で、ほかの土地のように鶏ではなく魚が中心になります。
東海・北陸
名古屋の雑煮は、驚くほど簡素なことで知られています。すまし汁に角餅と、餅菜(もちな)と呼ばれる青菜だけを入れます。「菜」を「名」に重ね、名を持ち上げるという縁起をかついで、餅と菜を一緒に箸で持ち上げて食べるとも説明されます。
北陸は丸餅と角餅が入り組む地域です。石川の金沢では角餅のすまし雑煮が多く、同じ県の能登では丸餅に岩のりをのせる雑煮が見られるといわれます。福井では、かぶを入れた味噌仕立ての雑煮が知られ、かつお節をかけて仕上げます。県境だけでなく県の中でも形が変わる、という好例です。
近畿
京都の雑煮は、白味噌の汁に煮た丸餅、頭芋(かしらいも)や祝い大根を入れます。頭芋は人の上に立つことへの願いを込めたもので、大根も丸く切ります。角を立てず、円満に過ごす願いが、切り方にまで表れています。
奈良には、白味噌やすましの雑煮に入れた餅を取り出し、砂糖を混ぜたきな粉につけて食べる家があります。餅をおかずとして食べるのではなく、最後は甘いものとして味わう形です。
中国・四国
鳥取や島根の一部には、先ほどの小豆雑煮があります。島根の出雲地方の海沿いでは、岩のりをたっぷりのせたすまし仕立ての雑煮も知られています。広島には牡蠣の入る雑煮があり、瀬戸内の冬の味覚が正月の椀に入ります。
香川のあん餅雑煮は、全国の雑煮の中でも特に驚かれる一杯です。いりこのだしに白味噌を溶いた汁に、あんの入った丸餅を入れます。甘じょっぱい味で、ふだんは口にできなかった砂糖を正月に味わう楽しみだった、という説明がされています。讃岐の砂糖づくりとの関わりも語られます。
九州・沖縄
博多の雑煮は、あごだしのすまし汁に、ぶりとかつお菜を入れるのが定番です。かつお菜は名前のとおり、かつおのようなうま味があるといわれる葉物で、博多の正月に欠かせません。鹿児島には、焼いて干したえびでだしを取る雑煮があり、ここでは西日本でありながら角餅を使う地域も見られます。
沖縄では、もともと雑煮を食べる習慣があまり根づいておらず、正月には豚の内臓を使った汁などの料理が用意されてきたとされます。
餅を入れない雑煮
雑煮といえば餅と思いがちですが、里芋や豆腐を中心に、餅を入れない雑煮を食べる土地もあります。民俗学では、正月に餅を食べないこうした習慣を「餅なし正月」と呼び、米だけでなく芋を大切にしてきた暮らしの表れではないかと研究されてきました。雑煮の地域差は、味の好みだけでなく、その土地で何が取れ、何が尊ばれてきたかにもつながっています。
具に込められた願いと土地の産物
雑煮の具には、縁起の意味がよく語られます。たとえば次のようなものです。

ただし、意味は後からつけられたものも多く、同じ具でも土地によって説明が違います。まず土地で取れるものがあり、そこにめでたい意味を重ねていったと考えるほうが自然です。ぶりの雑煮が西日本の海に近い地域に多いこと、鮭の雑煮が北の地域に多いことは、年取り魚の東西の違いとも重なります。年の瀬に用意する魚が東は鮭、西はぶりといわれるのと同じ流れです。
餅と一緒に煮る野菜は、薄く切るか小さめに切って下ゆでしておくのが一般的です。これは短い時間で仕上げるための工夫でもあります。正月の朝は火を使う時間を減らしたいという考えもあり、三が日は煮炊きを控えるという風習とも結びつけて語られます。そのため、年末のうちに下ごしらえを済ませてしまう家が多くあります。
いただくときの決まりごと
雑煮は箸にも決まりごとが残っています。正月には両端が細い祝い箸を使う家があり、一方を人が、もう一方を神様が使うという考え方から来ていると説明されます。年神様と同じものをいただくという、雑煮の起こりの説明と重なる習わしです。
雑煮を食べる日も家によって違います。三が日続けて食べる家、元日だけの家、七日の七草がゆまで食べる家とさまざまです。どれが正しいというものではありません。










